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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)9942号 判決

原告

石立鉄男

被告

株式会社三峰

ほか一名

主文

一、被告らは各自原告に対し金三九万一三四〇円およびこれに対する昭和四三年九月一六日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は一〇分し、その四を原告の、その余を被告らの、各負担とする。

四、この判決は、原告の勝訴部分に限り、仮に執行できる。被告らにおいて、それぞれ金三〇万円の担保を供したときは、その担保を供した被告は右仮執行をまぬがれることができる。

事実及び理由

第一、当事者間に争いがない事実

一、事故の発生

昭和四二年一〇月一日午後五時一〇分ころ、東京都世田谷区池尻三丁目二一番地路上において、訴外加藤孝雄が運転し原告が同乗する自動車(名古屋五に三三三六号)に被告小俣昌雄が運転する自動車(品川五り九三〇八号)が追突し、原告は頸椎捻挫の傷害を蒙つた。

二、責任原因

被告小俣は、前方不注視、車間距離不保持等の過失により本件事故を発生せしめたものであり、被告会社は本件事故時において被告車を所有し自己のため運行の用に供していたものである。

三、損害

原告は、本件受傷による治療費として金一万六二七〇円、頸椎用軟性コルセツト代金として三三〇〇円、合計金一万九五七〇円を要したが、これについては原告は被告らから弁済を受けた。

第二、争点

一、原告の主張と申立

1  以上のほか、本件事故によつて原告の蒙つた損害はつぎのとおりである。

(一) 通院のためのタクシー代 金一三四〇円

(二) 休業損害 金四〇万円

原告は、株式会社文学座所属の俳優であり、昭和四二年一〇月末ころから、松竹映画「男なら振向くな」に出演料四〇万円の約定で出演契約を締結していたのであるが、本件受傷により右出演が不能となり、そのため右金四〇万円の支払が受けられず、これと同額の得べかりし利益を喪失した。

(三) 慰藉料 金一〇万円

原告の本件受傷による精神的苦痛は、被告らから右金額の支払を受けることによつて慰藉されるというべきである。

(四) 弁護士費用 金七万円

原告は、被告らが以上の損害賠償債務を任意に履行しないのでその取立を弁護士たる本訴原告訴訟代理人に委任し、その手数料として金二万円を支払つたほか、謝金として金五万円を支払うべきことを約束し、同額の債務を負担した。

2  本訴申立

よつて、原告は被告らに対し以上合計金五七万一三四〇円の支払を求める権利があるから「被告らは原告に対し金五七万一三四〇円およびこれに対する本件訴状送達の翌日以後の昭和四三年九月一六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求める。

二、被告らの主張と申立

1  休業損害の主張については、仮に原告主張のとおりであつたとしても、右は特別の事情に基づくものであるから原告の本件受傷と相当因果関係がない。仮にそうでないとしても、その主張にかかる映画に出演を予定されていた期間中ラジオ、テレビに出演して収入を得ていたものであるから、右収入は原告主張の休業損害額より控除されるべきであり、また、原告においてその主張にかかる利益を挙げるためには四〇%を下ることのない経費が必要なのであるから、これもまた控除すべきものである。

2  申立

よつて、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決並びに原告勝訴の場合担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求める。

第三、証拠関係「略」

第四、争点に対する判断

一、通院のためのタクシー代 金一三四〇円

〔証拠略〕によれば、原告の通院のための交通費は、すくなくとも原告の主張する金額を下るものではなかつたものと認められる。

二、休業損害 金二四万円

休業損害に関する原告主張の事実は、〔証拠略〕を総合してこれを認める。そして、原告が右金四〇万円の収入を得るためには、すくなくともその四〇%を下ることのない経費を要するものであることは、原告本人が自ら供述するところであるから、右金四〇万円からこの経費に相当する分を控除すれば、原告が本件受傷により喪失した得べかりし純利益は金二四万円となる。なお、原告が本件受傷によりその主張にかかる映画出演が予定されていた期間中にテレビ等に出演して収入を得たことは、〔証拠略〕によつて明らかであるが、右各証拠によれば、右テレビ等の出演は、本件事故以前よりすでに予定されていたもので番組の編成上やむなくそうしたものにすぎないのであつて、前記のとおり映画の出演が不能になつた結果によるものではないことが明らかであり、また、右映画出演不能による原告の得べかりし利益の喪失がいわゆる特別の事情によるものでないことは、前記認定にかかる原告の職業に照らして明らかであるから、これらの点に関する被告らの出張はいずれも理由がない。

三、慰藉料 金一〇万円

以上の諸事実並びに本件にあらわれた諸般の事情を考慮すれば、原告の本件受傷による精神的苦痛に対する慰藉料は右金額をもつて相当と認める。

四、弁護士費用

原告主張の事実は、〔証拠略〕によつてこれを認めるに充分であるが、叙上認容損害額、本訴の推移その他にかんがみ、被告らにおいて賠償の責に帰すべき弁護士費用は、このうちの金五万円をもつて相当と認める。

第五、結論

以上のとおりであるから、原告の本訴請求は被告らに対し金三九万一三四〇円およびこれに対する本件訴状が被告らに送達された翌日以後である昭和四三年九月一六日から支払ずみにいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを正当として認容し、その余の請求を失当として棄却する。よつて、民訴九二条、九三条、一九六条の各規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 原島克己)

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